2015ショパンコンクールレポート

ショパン国際コンクール(22)決勝1日目 大きな世界に身を委ねる

2015/10/19
第17回ショパン国際ピアノコンクール、ついにファイナルの時がやってきました!初日18日には4名がピアノ協奏曲第1番Op.11に挑みました(ヤチェク・カスプシク指揮、ワルシャワ・フィルハーモニック共演)。ショパンはワルシャワを発つ約1か月前の1830年10月、国立劇場*でこの曲を演奏しました。プログラムは、ロッシーニ『ウィリアム・テル』序曲や『湖上の美人』アリアなども組まれており、初恋の人コンスタンツィアも歌ったそうです。家族や恋人、友人などに囲まれた故郷を離れ、一人旅立とうとする20歳のショパンの胸に去来したのは、より大きな世界に身を委ねる覚悟だったかもしれません。より大きな音楽の世界に。
そこで今回は「より大きなものに身を任せる」という点から。

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小林愛実さん(日本)第1楽章はフレーズを大きく長く感じながら、切ない心を歌うように、自然で清楚な美しさに溢れていた。オケと一緒に呼吸し、同じ空間に身を委ねている感覚がたしかにあり、オケの内側から音が出て雄大なフレーズをともに描いていく。中でも、第2楽章は素晴らしく、非常にゆったりした呼吸で、情熱的にニュアンスたっぷりにロマンスが歌われる様は、まるでオペラのディーバのようでもあった!歌い方も今まさにその場で創り上げられていくかのような新鮮さ。第3楽章は軽快に、もっとはじけてもいいくらいだったが、オケと完全に一体化しながら雄大な音楽を奏でた。周りの空気を取り入れながら、自らも堂々と主張する素晴らしいバランス感覚である。大舞台が似合う20歳!(photo:Wojciech Grzędziński NIFC)

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ケイト・リュウ(米国)第1楽章はとても清廉な美しい音で、声楽科学生だったコンスタンツィアがピアノを弾いたらこんな感じだろうか。メロディの歌わせ方は切なさや悦びといった生々しい感情がもう少し伝わってきても良いとは思ったが、第2楽章などはまさに彼女の本領発揮で、瞑想のような音空間を創り出した。ある意味、現世を大きく超えた、幽玄の世界を創り出せる稀有な21歳!(photo:Wojciech Grzędziński NIFC)


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チョ・ソンジン(韓国)は完全なまでに美しいピアニズムを実現した。オケの描く大きなフレーズや呼吸よりも自分の呼吸を貫いたからか、心理的な高揚感が先に終わり、次のフレーズを一人待っているという一瞬の空白があったように感じた。しかし第2楽章も極めて美しく、第3楽章は遊び心がもっとあってもよかったが、次第に呼吸が自由になり、オケと息を合わせて堂々のフィナーレ!末恐ろしい21歳!(photo:Wojciech Grzędziński NIFC)


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アリョーシャ・ユリニッチ(クロアチア)はこの曲を自分の感性で捉えようと試みていた。力がふっと抜けた時の美しい音や、アーティキュレーションやルバートなどに独自の工夫があったが、時折粗い音や脈略が感じられないこともあり、全体としては若干ムラがあった印象。音は比較的真っ直ぐに届き、音の膨らみ方はオケと同じ大きな円弧ではないが、オケと融合しようという心意気は十分伝わってきた。第3楽章スケルツォが彼の本質を最も発揮できただろうか。一次予選から、自分独自のアプローチを試みた26歳!(photo:Wojciech Grzędziński NIFC)


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写真:TV番組「TEPPEN」でのピアノ演奏でも知られ、現在は東京音大に通っている、元AKB松井咲子さんと。


※ショパンがワルシャワ最後のコンサートを行ったのは、フィルハーモニーホールではなく、国立劇場でした。ここに、お詫びと訂正をさせて頂きます。

菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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