ショパンコンクールレポート

ショパン国際コンクール・入賞者インタビュー―想像力の源泉は?

2010/10/25

入賞者インタビュー第2弾は、2位のルーカス・ゲニューシャスさんと、3位のダニール・トリフォノフさん。ロシア、米国と拠点は離れているが、とても仲良しなお二人。そして二人とも想像力溢れる演奏でワルシャワの聴衆を魅了した。

 

●偉大でユニークなショパン/ルーカス・ゲニューシャスさん(2位)

―2位入賞、おめでとうございます!いつ頃からこのコンクールを目指しましたか?

winners_lucas2.gif小さい頃から、将来このコンクールを受けたいと思っていました。受けることを決めたのは1年ほど前です。今回弾いた曲はほとんど昔から練習している曲です。ピアノ協奏曲1番は11歳の頃に初めて弾きました。

―どのステージが一番印象深いですか?

どのステージも緊張しましたが、やはり三次予選が一番責任を感じました。

―なぜ三次予選でエチュードop.25を選んだのですか?

確かにコンクールの自由曲でエチュードを選ぶ人はあまりいないと思います。でも自分にとってはよい選曲だと思っています。実は昨年前奏曲op.28の全24曲をチクルスとして取り組み、コンサートでも演奏しました。そして今回はエチュードop.25の12曲全曲、という流れです。

―なるほど。ところで、あなたの演奏は巨大な建築物をデザインするようなアプローチに感じます。

確かに音楽は建築物を設計するようですね。どのような形にすればよいか、細かい部分をどう考え、どう繋げて全体を最良の形に仕上げればよいか。それを考えながら取り組んでいます。

―エチュードop.25はどのように設計しましたか?

この曲は既にフリデリックによって完璧に設計されています(笑)。一つ一つが切り離されて独立した曲ではなく、一つのチクルスになっています。曲と曲の間に一つのラインがあり、ダイアグラムのようでもある。ですから、1つの曲として捉えました。

―知的に構築された演奏の中に、即興のような勢いあるフレッシュな感覚も覚えます。即興はなさいますか?

時々余興で即興することはありますが、専門的に学んでいるわけではありません。即興は一つの専門的な分野だと思っています。しかし日常生活の多くのものからインスピレーションを受けています。特定のものではありませんけれど。
僕自身は日常生活や友人との付き合いと、音楽の世界を完全に切り離して考えています。人生の原動力と音楽の原動力は、それぞれ源泉が違います。とはいえ、音楽で得たエネルギーを別の方向へ柔軟に切り替えることはできます。

―あなたにとってショパンとはどのような存在ですか?

ショパンは偉大な作曲家の一人です。それにユニークですね。でも他の作曲家も大好きですね。ストラヴィンスキー、ヒンデミット、ベートーヴェン、シューマン、ラフマニノフ、メトネル・・・なども好きです。

―ショパン作品の中で最も興味がある期は?

後期のマズルカなどはロマン主義の最高芸術だと思います。幻想ポロネーズも最高傑作の一つで、中規模作品ではロマン主義を代表する曲であり、バラード、幻想曲、ノクターンなどの要素が内包されたユニバーサルな曲だと思います。演奏者によっていかようにも解釈し、形を変えることができる。ですから一つ一つの音が非常に大事で、どの音符やフレーズも大切に扱うようにしています。

―現在モスクワで勉強なさっていますね。

はい。モスクワで生まれて育ちました。ここ10年ほど祖母(名教師ヴェラ・ゴルノスタエヴァ)と一緒に暮らしています。彼女は多くのものを教えてくれます。祖母とは音楽の繋がりだけでなく、大切な友人でもあるんです。

―音楽以外の趣味を教えてください。

僕は普通の人間なので、音楽以外にも好きなものは沢山あります。芸術全般が好きですね。またロシア文学や、シェークスピア、ゲーテ、オスカー・ワイルド、トマス・マンなどの外国の古典文学も好きです。ヴィスコンティ、フェリーニなどのイタリア映画にも興味がありますし、絵画ではヴァン・ゴッホは全期に渡って好きですね。


※低く渋い声で丁寧に答えてくれたルーカスさん。「音楽のことを言葉で語るのは難しい」と言いながらも、一つ一つの言葉には人生を濃密に生きているエネルギーが感じられる。私服姿もばっちり!


 

●マズルカの繊細さを表現して/ダニール・トリフォニフさん(3位)

―3位入賞おめでとうございます!今のご感想を一言お願いします。

winners_trifonov.gif以前より大きな責任を感じています。

―どのステージが最も大変でしたか?

一次予選が一番緊張しました。時間も限られて、会場の音響や雰囲気にあまり慣れていない状態ですし、また何曲かはステージで初めて弾いた曲でした。もっと時間が長い方が自分を十分に表現できますね。

―マズルカ賞も受賞されましたね。

マズルカ賞を頂いたことは、ちょっと驚きでした。マズルカの繊細さが自分の解釈に近かったのかなと思います。ショパンの中でも重要な作品で、とても好きです。実は今日、ヴァイオリン、チェロ、打楽器などのアンサンブルでマズルカを聴きました。ポーランドのマズルカと自分の演奏が近ければいいなと思います。ポーランドとロシアは言語も似ていますし、舞踏のリズムにも似ている部分があると思います。

―初めて弾いたショパンの曲は何ですか。

確か11歳の頃に弾いた、華麗なる変奏曲だったと思います。

―他に好きな作曲家は?

プロコフィエフ、スクリャービン・・・好きな作曲家は沢山いますね。プロコフィエフなどの音楽家に関する本もよく読んでいます。あとはサッカーを見たり、自分が興味があることを色々しています。


※現在米国のクリーブランド音楽院でセルゲイ・ババヤン先生に習っているというダニール君。ややはにかみながら誠実に答えてくれる姿が印象的。初めてショパンを弾いたのは10、11歳の頃だそう。想像力豊かな演奏の理由は「瞑想」!


ピティナ編集部
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