ショパン国際コンクール第三次予選・2日目
第三次予選の2日目。この日も計8名のピアニストの演奏を聴いた。55-60分のプログラムの途中で1回1分の休憩が認められているが、全員が最後まで休憩なしで弾き通す。表現意欲の強さが問われる三次予選は、各ピアニストにとってまさに正念場。さて2日目の模様は・・?
一次・二次予選と見事な演奏を披露したユリアナ・アヴディエヴァ。バラード4番op.52はルバートを多くかけた濃厚な歌い方。ノクターンop.27はベルカントのように朗々と歌う。ソナタ2番op.35はやや力んだようではあるが、幻想ポロネーズともに、確かな実力に裏打ちされた隙のない演奏を披露。ショパンの洗練された音楽の奥に宿る、激しいテンペラメントを最大限に引き出して表現した。(使用ピアノ:ヤマハ)
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インゴルフ・ヴンダーはショパン青年期の作品を多く選択した。まずはマズルカ風ロンドから。空気のような軽やかさで始まり、テーマの変奏を丁寧に描き分けていく。次第にリズムが重くなってくるが1曲目に相応しい華やかさはある。続いてのボレロもややリズムが重い。ソナタ3番第1楽章はマエストーソというよりは、グランディオーソ的に始まりその空気感が全体を占めていた。どちらかというと思索的というよりは、知性と節度を持って美を感じ取る力が優れている。一方幻想ポロネーズは荘厳で内省的な序奏で始まり、やがてポロネーズのリズムが追憶のように響いてくる。彼なりの幻想性が垣間見えた。音の響きに対する感覚は鋭く、旋律に宿る美を自然に引き出している。(使用ピアノ:スタインウェイ)
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18歳のニコライ・コジャイノフは幻想ポロネーズの序奏を力強く始め、多彩に表情をつけていく。曲想を素直に捉え、剛と柔の音質を使い分けながら、自然に音楽を推進する力がある。バラード4番op.52、スケルツォ4番op.54も安心して聞ける。ソナタ2番op.35は深い音でドラマティックに始まる。ディナーミクの付け方がやや大味になることがあるが、もっと微細な表情を読み取れる力を秘めている。今後どう成長するのか楽しみ。(使用ピアノ:ヤマハ)
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マルチン・コジャクもあまり細かく作りこまず、大きく音楽を捉える。自然な幻想ポロネーズ、美しく伸びやかなノクターンop.15-2、自然なフレージングのスケルツォ4番op.54は心に響く箇所が多くある。ソナタ3番op.58もたっぷりした呼吸から放たれるフレーズが美しく、ショパンが見たであろう夢の世界の一部を垣間見せてくれるような美と想像力がある。深い思索というより、心情を汲んだ音色を持ち、それが時折心にそっと寄り添ってくる。(使用ピアノ:スタインウェイ)
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一方、一次予選でユニークで個性的な側面を見せたメイ・ティン・スン。三次予選は手堅く知的に構築された世界観を披露した。幻想ポロネーズは中間部で祈りと悟りの境地を経て、次第に希望が沸いてくるような再現部へ。彼なりのストーリーが存在していた。マズルカop.7はしっかりコントロールされた音とフレージングで表現。ソナタ2番もアプローチには大きな特徴はないが、表現意欲と構築力には確かなものがある。その他に即興曲op.36(使用ピアノ:ヤマハ)
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イレーネ・ヴェネツィアーノは可憐さと温かさが同居する。ノクターンop.15-1はしっとりと情感にあふれ、包み込むような母性がにじみ出る。op.15-2や子守唄は、彼女の透明感ある瑞々しい音色と歌い方がこの曲にぴったり。聖母のような魅力を湛える。ソナタ2番もロマンティシズムとリリシズムに溢れ、本人が感動しながら弾いているのが伝わる。(使用ピアノ:ファツィオリ)
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ワイ・チン・レイチェル・チュンは、ソナタ2番op.35から。ショパンの音楽に対する真剣な眼差しと敬愛を感じるが、もう少し行間を読み取れるとよいだろう。華やかにアピールする部分もあり、今後に期待したい。その他に前奏曲op.28 no.7-no.24(使用ピアノ:)
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※ユーリ・シャドリンは病気のため三次予選を棄権と発表された。
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photo© Narodowy Instytut Fryderyka Chopina