ショパン国際コンクール第二次予選・3日目午前
ジンドブレ!第二次予選3日目の午前。今日も会場は多くの聴衆で埋め尽くされ、日に日に熱気を帯びてきている。この日は、度肝を抜かれるような演奏が登場した。
一次予選でインスピレーション溢れる演奏を披露したエフゲニ・ボジャノフ(Evgeni Bozhanov)。二次予選はそれを上回った。舟歌は冒頭左手の一音を、特別な音色で始める。穏やかな湖面を思わせる左手伴奏に右手がのり、第二テーマからは早や神秘の世界へ。そしてマズルカ風ロンドからは、完全に彼の世界観が展開される。軽やかでありながら芯のある打鍵と独特のリズム感は、要所要所で曲を引き締め、解き放ち、再び掴みとる。そうして音楽と対話しながら、自在に鮮やかに音楽を膨らませていく。そのタイミングに我々は翻弄され、いつの間にかはまるのだ。ポロネーズop.71-2は左手のアーティキュレーションが絶妙な歯切れの良さで、曲全体に独特の浮揚感と推進力を与えている。ワルツop.42はメロディとリズミカルな部分のコントラストが面白い。そして真骨頂はマズルカop.59だろうか。no.1冒頭右手のフレーズの後に左手で短く鳴らされた一音が、凝縮されたエッセンスのように、このマズルカの先行きを暗示する。あとは是非、演奏を聴いて頂きたい。その他に英雄ポロネーズ。(使用ピアノ:ヤマハ)
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大崎結真さんは全てにバランスが良く、安定した演奏で印象づける。ワルツop.34-3は3拍子の軽快なステップが聞こえてくる。アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズは、あまり抑揚をつけずに静かなアンダンテ・スピアナートから、対照的に力強いポロネーズが始まる。ポロネーズのリズムがきっちり刻まれる中、右手は柔らかさや優雅さを最大限に表現。バラード3番は音量・音質・構成とも洗練されている。マズルカop.59はリズムがやや重めではあるが哀愁を帯びた歌い方が印象に残る。そこに突如、前奏曲op.28-16の風のように速く鮮やかなパッセージ!一次予選のエチュードop.10-2のような、空気を一変させる効果がある。以降no.24まで様々に表情をつけながら、最後は迫力あるバスを効かせてプログラムを堂々と締めくくった。(使用ピアノ:スタインウェイ)
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荒削りな部分はあるが、マズルカで印象づけたのはポーランドのパヴェル・ヴァカレツィ(Paweł Wakarecy)。一次予選で見せた勢いの良さは、ポロネーズop.40-1に現れている。ワルツop.18は歌わせ方に遊び心がある。それはマズルカop.24でも垣間見えた。no.1はcon animaで生き生きと、no.2はリズムをしっかり刻むが軽やかで愛嬌がある。no.4はスケルツァンドの表情が可愛らしい。sotto voceは心の内側を描写しているようで、con animaと明確に対比させる。きちんとした拍感をベースに、余白たっぷりの遊び心が感じられるマズルカ。ポロネーズop.44を手堅く演奏して終えた。その他にバラード1番op.23。(使用ピアノ:スタインウェイ)
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香港のワイ=チン・レイチェル・チュン(Wai-Ching Rachel Cheung)は器用なタイプ。華麗なる変奏曲op.12は、文字通り華麗に。マズルカop.24はno.1レントを思い切りレントに、no.2、no.4も濃厚に歌う。舟歌、ワルツop.34-1も優雅な演奏である。アンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズは和音の配分などに整理されていない箇所があるが、中間部はじっくりと歌い上げ、パッセージも綺麗にこなし、安定した実力を示した。(使用ピアノ:スタインウェイ)
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<会場でキャッチ!> ショパン研究者
ショパン・エチュードの指使いの研究をしている多田純一氏。2007年度ピティナリポート(「エディションの歴史に見るコルトー版の指使い」(エチュードop.10-2)にも採用されている。「とても個性的なピアニストが多くて、楽しませて頂いています」。左は奈良教育大の前田則子先生。