ショパン国際コンクール第4日目・午後
目の覚めるような演奏が登場した、4日目後半の模様から。
ロシア出身ユリアナ・アヴディエヴァ(Yulianna Avdeeva)。いきなりノクターンop.62-1の最初の二音から魅せられる。打鍵が深く、陰影を帯びた音色と効果的な弱音によって、様々な表情を曲と楽器から引き出す。後半の甘美でエキゾチックな音色は、やや硬質な高音の響きによって効果が増した。エチュードop.25-11は下行パッセージに宿る光のプリズムが多彩な色彩を帯びる。op.10-10はコーダ前のパッセージの弱音が美の極み。スケルツォ4番op.54は問いかけのような冒頭に対して、テーマを経て、中間部が一つの答えのように応答する。この中間部は別世界の美しさで、後半も変幻自在な色合いを帯びたパッセージが続き、最後に全てを解決する力強いコーダで締めくくられた。快心の演奏。(使用ピアノ:ヤマハ)
本日は地元ポーランド出身が2人登場。マルシン・コジャク(Marcin Koziak)は、まずノクターンop.48-1で説得力ある語り口を見せる。エチュードop.25-5は内声を強調し、中間部は思い切りゆっくり左手で歌いあげ、最後は堂々と締めくくる。op.10-12は最後のパッセージの前、嵐の前の静けさのようなただならぬ不気味さを演出。スケルツォ2番op.31は中間部の描き方が工夫され、全体として演出効果を考えた演奏だった。(使用ピアノ:スタインウェイ)
もう一人ヤシェク・コルトゥス(Jacek Kortus)は2005年度も出場し、地元ポーランドの期待を背負う。ノクターンop.62-2は適度に陰影がついたパッセージは美しく、卒なくまとめる。エチュードop.25-11も卒がない。スケルツォ1番op.20は考えられた構成で緻密に演奏され、意外性や即興性といった要素はないが、美しくまとまりのある演奏だった。(使用ピアノ:スタインウェイ)
美しくまとまっているという点で類似するのは、イリヤ・ラシュコフスキー(Ilya Rashkovskiy)。エチュードop.25-10は歌わせ方に気品がある。幻想曲も中間部の描き方が秀逸で、コラールのような荘厳さが感じられた。ただ最初に弾いたノクターンop.48-1は音の配分が整理されておらず少し残念。(使用ピアノ:スタインウェイ)
同じくロシア出身のウラディミール・マトゥセヴィッチ(Vladimir Matusevich)は、ノクターンop.27-1のメロディラインが美しい。エチュードop.25-6はやや乱れがあり残念だったが、スケルツォ1番op.20は中間部に洗練された歌心を感じる。ディナーミクやフレージングに個性があり、それが曲想に一定の効果を与えていた。(使用ピアノ:スタインウェイ)
一方、米国のメイ=ティン・スン(Mei-Ting Sun)は要所要所でミスタッチがあったが、京劇役者のような濃い演出をする。エチュードop.10-2は最後ルバートをたっぷりかけて表情をつける。エチュードop.10-3も執拗にルバートをかける。バラード1番op.23は静けさから一気に爆発するような演出をしたり、一つ一つのフレーズに執拗なまでに表情をつけ、意外性はたっぷり。(使用ピアノ:ヤマハ)
日本からは二人が登場。深見まどかさんは、ノクターンop.62-2で内声が微妙な色彩感を帯びていて、はかなり心の移ろいな表現が印象に残る。エチュードop.10-8は鮮やかに弾きこなした。スケルツォ2番op.31はディナーミクの幅がやや狭く、もう少し高音にも響きがあると良かったかもしれない。(使用ピアノ:ヤマハ)
岩崎洵奈さんは、ゆったりした呼吸から長いフレーズで音楽を作る。エチュードop.10-5はルバートをかけてじっくりと表現。ノクターンop.48-1はテーマを長いフレーズ感を持って捉える。バラード4番op.52も健闘が見られた。(使用ピアノ:スタインウェイ)
7日はいよいよ第一次予選最終日、そして結果発表です!