ショパンコンクールレポート

ショパン国際コンクール第1日目・午前

2010/10/03

2010chopin_hall.gif晴天に恵まれたワルシャワの朝。いよいよ本日3日より、第16回ショパン国際ピアノコンクールがスタートした。ステージ上方にはショパンのサインを模した看板がかけられ、ステージ上にはエントリー番号と氏名がモニターに掲示される。(写真は別日に撮影したもの)

午前10時より司会の挨拶、審査員全員の紹介に続き、いよいよ番号1番の演奏が始まった。これより、演奏の模様や会場の様子などを随時お届けする。

 

<第1日目・前半>


●10.00 - Peng Cheng He (China) *スタインウェイ
Fryderyk Chopin - Etude C minor op. 10 nr 12
Fryderyk Chopin - Etude G-sharp minor op. 25 nr 6
Fryderyk Chopin - Nocturne B major op. 9 nr 3
Fryderyk Chopin - Barcarolle F-sharp major op. 60

舟歌から始まる。序奏から一瞬の間をおいて第一テーマに入る効果的なためと、その後に続く優美なフレージングが印象的である。第二テーマに入る前のpoco piu mossoのパッセージにも、繊細なニュアンスと陰影があり、たゆたうような流れへ繋がっている。再現部前の長いパッセージもため息が出るような美しさ。またノクターンでも旋律の歌わせ方が流麗であり、最後の三度の和音で下行するパッセージも優雅。しかしいずれも陶酔しきっておらず、絶妙なバランスが保たれている。ただバスで十六分音符が連続すると、やや音が濁る傾向があるか。旋律を消してはいないが、エチュード2曲でも同じ印象を持った。最後は革命エチュードで同じ締め括られたが、右手にもっとドラマが欲しい。しかし全体を通して叙情性に優れ、プログラム構成にもバランスが取れており、コンクールの一番手として好スタートを切った。


●10.30 - Marianna Prjevalskaya (Spain) *カワイ
Fryderyk Chopin - Etude G-flat major op. 10 nr 5
Fryderyk Chopin - Etude A-flat major op. 10 nr 10
Fryderyk Chopin - Nocturne D-flat major op. 27 nr 2
Fryderyk Chopin - Fantasy F minor op. 49

スペイン出身、緑のドレスで登場した。ノクターンから始まり、大らかに伸びやかに歌い上げる。伸びやかさが過ぎて時折雑になることもあるが、ゆったりしたテンポを保ち、呼吸も長い。幻想曲はもう少しミステリアスに演出してもよいだろうか。転調で音色を変化させつつ朗々と歌い上げ、時折音に反映されていないことがあるが、思考している音楽は大きいものを感じさせる。


●11.00 - Esther Park (USA) *スタインウェイ
Fryderyk Chopin - Etude C major op. 10 nr 1
Fryderyk Chopin - Etude B minor op. 25 nr 10
Fryderyk Chopin - Nocturne E major op. 62 nr 2
Fryderyk Chopin - Ballade F major op. 38

バラード2番から。フラットな音色で始まり、何かを予兆させるような緊張感はあまりない。しかし指の敏捷性やリズム感の良さがあり、presto con fuocoや最後のagitatoも乱れることなく劇的に奏された。ただ、最後は冒頭と同じ平板な感じで終わる。エチュードaは流れるようなアルペジオが美しい。エチュードbの両手オクターブユニゾンは彼女の指の力強さが生かされている。バラード同様、静と動の性質の描き分けが加わるとさらに興味深い。


●11.30 - Maiko Mine (Japan) *スタインウェイ
Fryderyk Chopin - Etude A minor op. 25 nr 11
Fryderyk Chopin - Etude G-sharp minor op. 25 nr 6
Fryderyk Chopin - Nocturne B major op. 9 nr 3
Fryderyk Chopin - Barcarolle F-sharp major op. 60

舟歌は落ち着いた序奏から、第1テーマが静かに始まる。第2テーマまでの運びも凪のように静かで左手も大きく波立たない。厳かに奏される第2テーマは卒なく綺麗なフレージング。長い美しいパッセージで期待を持たせつつ、再現部からいよいよ船出という雰囲気。両手とも躍動感が増し、最後は美しい煌きの中でフィナーレを迎える。静かながら、徐々にエネルギーを増してくる興味深い舟歌だった。ノクターンは変則的なリズムを正確に刻むも、それが微妙に揺れ動く一本の糸のように有機的に繋がるとなお良いと思われた。

 
●12.30 - Miroslav Kultyshev (Russia) *スタインウェイ
Fryderyk Chopin - Etude F major op. 10 nr 8
Fryderyk Chopin - Etude G-sharp minor op. 25 nr 6
Fryderyk Chopin - Nocturne E-flat major op. 55 nr 2
Fryderyk Chopin - Ballade F minor op. 52

ノクターンでは、さり気ない歌心が示される。時折隠れた内声部の旋律が浮かびあがり、それが意外性を持たせる。バラード4番においても、第1、第2テーマの呈示はあくまでさり気ない。物語を劇的に展開するより、複雑に交差するハーモニーの中から、新たな旋律を発掘するアプローチを好むという印象を受けた。


●13.00 - Takaya Sano (Japan) *スタインウェイ
Fryderyk Chopin - Etude C major op. 10 nr 1
Fryderyk Chopin - Etude G-sharp minor op. 25 nr 6
Fryderyk Chopin - Nocturne B major op. 62 nr 1
Fryderyk Chopin - Scherzo E major op. 54

少し緊張した面持ちで始まったノクターン* は第1テーマで少し呼吸が速くなったが、次第に落ち着きを取り戻し、パッセージの運びも美しくまとめる。たっぷり歌う箇所とさっと進む箇所が入り混じり、やや即興的な雰囲気は、舟がどこへ行くとも知れず揺れ動く様でもある。一方、スケルツォ4番はきっちりとテーマが繰り返される中に、もう少し音質の変化などを出しても良かったかもしれない。エチュードaは1つの1つのパッセージが大きなフレーズでまとめられると、より全体がまとまった印象になったと思われる。


●13.30 - Hyung-Min Suh (Republic of Korea) *スタインウェイ
Fryderyk Chopin - Etude G-flat major op. 10 nr 5
Fryderyk Chopin - Etude E minor op. 25 nr 5
Fryderyk Chopin - Nocturne B major op. 62 nr 1
Fryderyk Chopin - Scherzo B minor op. 20

自己演出がうまいピアニストである。ノクターンは大仰な入りではないが、一瞬の間を置いてすっと溶け込むようにテーマが始まる。音の跳躍や色彩感も感じ取りながら、ピアノをよく響かせる。再現部前のパッセージは特に幻想的で美しい。最後は冒頭と同じくさらりと終わる。エチュードaの引き締まった演奏に続き、bはルバートを執拗にかけてねっとり濃厚な表現を目指す。一方、スケルツォ1番はリズム感と強靭な指のバネを生かして、エネルギッシュに勢いよく音楽を進める。テーマを繰り返す度に異なる表現を試み、変化とユーモアが感じられた。一陣の風のような勢いと、意外性ある演奏が印象深い。


●14.00 - Leonard Gilbert (Canada) *スタインウェイ
Fryderyk Chopin - Etude A minor op. 25 nr 11
Fryderyk Chopin - Etude E minor op. 25 nr 5
Fryderyk Chopin - Nocturne D-flat major op. 27 nr 2
Fryderyk Chopin - Ballade F minor op. 52

全体として無垢で素朴な表現ながら、パッセージは優美さとロマンティシズムを内包し、ノクターンなどではそれが幻想性に繋がっている。一方バラード4番では主旋律が曖昧になったり、構成感が見えない部分もあった。エチュードbは、付点リズムで繰り返される短二度音程の連続を意識した作りが印象的。

*Takaya Sanoさんに関する文章に「舟歌」とありましたが、正しくは「ノクターンop.62-1」です。ここにお詫びの上、訂正いたします。


ピティナ編集部
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