第15回 アントン・ワルターのピアノ
【演奏】♪ ベートーヴェン:ソナタ作品27の2「月光」第1楽章 3つの楽器で弾き比べ (MP3)演奏:武久源造
チェンバロ(2m39s)|フォルテピアノ(アントン・ワルター・レプリカ)(4m46s)|ピアノ(シングルエスケープメントのブロードウッド)(6m01s)
さて、今回はモーツァルトが晩年に愛したピアノ、アントン・ワルターのピアノについて触れます。
ワルターピアノは現在3台残っていますが、いずれもかなり後期の物で、モーツァルトの最晩年、あるいは彼が亡くなってから作られたものです。 ワルターは、ピアノにいろいろと改良を加え、その結果彼のピアノは最終的に、膝レバーが二つ付いたものに落ち着きました。つまり、ダンパーを上げ下げするためのものとモデラートと呼ばれる弱音装置のオン・オフのためのもので、現代ピアノでは足ペダルで操作している物に似ていますが、これが膝の上げ下げで動くようになっていたのです。足ペダルに比べると幾分奏者の体の動きが制限されてしまいます。
ところが、ワルターの初期のピアノでは、これがもっと不自由でした。モーツァルトが買い求めた頃のピアノも含めて、モデラート装置、そして、ある場合にはダンパー装置までもが、手動操作だったからです。つまり、演奏中にこれらの装置をオンオフすることは難しかったわけです。
モデラート装置というのは、レバーを膝で押しあげると、ハンマーと弦の間にラシャなどの薄い布が挟みこまれるように工夫された物です。巧みに作られたモデラート装置を使うと、ハープに似たとても美しい音を出せます。それは単なる弱音のためのものではなく、独特の音色を生み出す機構でした。例えば、ベートーヴェンの若い頃はこの種のピアノに親しんでいたと思われますが、「月光」のニックネームで知られたソナタ(作品27の2)の第1楽章などで、このモデラートの真価を発揮させることができます。
ワルターピアノは、典型的な跳ね返り式のウィーン・アクションを持ち、ハンマーには洋ナシの木でてきた芯に鹿革が2あるいは3枚重ねて貼ってあります。指で鍵盤を押すと、アクションの機構によって、指の速さの4倍ほどの速さでハンマーが弦に向かって飛び上がります。このアクションは、指の力を弦に伝えるという点で極めて優れており、かなりの大音量から際弱音までを自在に弾き分けることができます。また、タッチは驚くほど軽快で、急速なパッセージでも楽に軽やかにひけるのです。
(続く)
武久 源造
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