第03回 故郷レーゲンスブルクを訪ねて(06/4/14)

第03回 故郷レーゲンスブルクを訪ねて(06/4/14)

2006/04/14 | コメント(0)  | トラックバック(0)  | 

ブルグミュラーの生まれ故郷、南ドイツのレーゲンスブルクに出かけてきました!ここはバイエルン州ドナウ河畔に位置する小さな都市です。1806年12月4日、この地でブルクミュラーは生まれています。彼の足跡をたどるような気持ちで訪ねてみました。

鉄道駅

到着したのは4月2日の日曜日。あざやかなレモン色のレーゲンスブルク中央駅を降り立つと、お昼少し前の街並みはとても静かです。通り沿いには、薄いブルーやピンクに塗られた建築物が並びます。一見したところ、明るくかわいらしい町並みです。ところがこの地は、かつては神聖ローマ帝国の中心地。実は深く重い歴史を内に秘めているのです。休日は無料で閲覧ができるという歴史博物館に入ってみました。ローマ人の帝国建設にまつわる資料がずらり。この地に漂う歴史の香りを受け取ることができます。実際に少し歩きまわってみると、12世紀にドナウ川にかけられた石橋、13世紀に建築されたゴシック建築の大聖堂など、「石と水の歴史都市」と呼びたくなる光景が広がります。

ブルグミュラーはこの生地にどのくらいの間暮らしていたかは定かではありません。デュッセルドルフで父親から音楽の基礎教育を受けたあと、作曲家L.シュポーアに作曲を習うためにカッセルに行った説もあれば、バーゼルで過ごしたという説もあります。1832年頃にはてパリに居をかまえたとされています。

聖ペーター大聖堂
左:聖ペーター大聖堂/右:聖堂内
聖堂内

かりに数年間でもこのレーゲンスブルクで生活を送ったならば、ブルグミュラーが必ず足を踏み入れたと思われるのは、聖ペーター大聖堂。立派な尖塔はこの街のシンボルです。聖堂内は外気との温度差が激しく、身体が芯まで冷える寒さです。「ブルグミュラーもこの寒さに耐えながらミサに与ったのだろうか。」そんな想像をしつつ、頭のなかで25練習曲の「アヴェ・マリア」をうたってみました。あれはパリ時代の作品ですが、作曲中には地元のこの聖堂のことを思い返していたかもしれません・・・。

カトリック音楽大学の表札
ドナウ川にかかる石橋
ドナウ川にかかる石橋
カトリック音楽大学の表札

ドナウ川を石橋から越えると、Hochschule fur Katholische Kirchenmusik und Musikpadagogik Regensburg カトリック音楽大学があります。何かお話は聞けないかと、呼び鈴を押してみましたが応答なし。日曜日のこの日は、その他の楽譜屋さんも楽器店も、みんな閉店でした。地図を頼りに歩き回ること数時間。旧市街の道は入り組んでいて、かなりの距離を歩くことになりましたが、結局この日は拠点地にしていたニュルンベルクに帰りました。

bma楽器店

楽譜店Feuchtinger & Gleicha 翌3日。夕方16時から再度レーゲンスブルクに入りました。訪問したのは由緒ある楽譜店 Feuchtinger & Gleichauf、1891年の創業です。
お店のウィンドウには、モーツァルト生誕250周年を記念するディスプレイはあるものの、出身者ブルグミュラーの生誕200周年についてはカケラも見当たりません。多少不安を覚えつつ、「日本から来ました。ここで生まれたブルグミュラーについて調べているのですが・・・。」と、こちらの店主に尋ねてみました。
「ああ、ブルグミュラーかい。そうさ、ここの生まれだよ。今でも子供たちの間でよく弾かれているんだ。」
そういって髭をはやした紳士的な店主は奥の棚からどっさり楽譜を出してきてくれました。

表紙

もしや、日本で知られざる作品が、この中にあるのではないかと期待しましたが、「25の練習曲」の各社版ばかり。この中で最も売れているのはペータース版とのこと。その他ショットやユニバーサルの版も人気だそうです。と、そこに見慣れない地味な体裁の一冊が。出版社名はRichard Birnbach Musikverlag。この版は?と尋ねると、「ドイツでも最も古くからある出版社だよ」と店主。中を開くと実に奇妙。タイトルはすべてドイツ語。その下に英語とフランス語タイトルがあるのですが、なんとそのフランス語はブルグミュラー自身が付けたフランス語タイトルと異なっているのです。面白いのでこの版を購入。このタイトル一覧は資料にあるとおり。

花
街路

この店主、さらに充実したブルグミュラーの資料(ドイツ語)を印刷して手渡してくれました。見ればこれはホームページで、これまでに聴くことのできなかったバレエ音楽「ペリ」の一部や、ノクターンやロンドなどの数曲を音源として提供している貴重なものです。こちらからご覧ください。

最後に店主は「レーゲンスブルクは、メトロノームの創作者メルツェル(1772~1838)の故郷でもあるんだよ。彼はこの通り沿い、二つほど先のブロックで生まれたんだ。」とも教えてくれました。出ると、通りの軒先にはかわいらしい花が。頭のなかで「やさしい花」が聞こえてきました。

音楽教室

音楽教室楽譜店を去るとすでに夜。その日のうちにミュンヘンに向かわねばならなかったのですが、あと一件、街の音楽教室Die Musikschule Regensburgに飛び込んでみました。いくつもある教室の一つからはハノンの練習曲が漏れ聞こえています。学院長に面会したのですが「ブルグミュラー?知らないな。聞いたこともない。僕はニュルンベルク生まれなんでね。」となんとも驚きの返答が帰ってきてしまいました。オチのような話ですが、事実知り合いのドイツ人のピアニスト兼作曲家が、ブルグミュラーの名は日本に来てから初めて知った、と話していたのを思い出しました。

次回は、ブルグミュラーが26歳から活動の地としたパリの楽譜店訪問です。

みんなのブルグミュラー目次連載目次資料 楽譜タイトル一覧

飯田 有紗
1974年北海道小樽市生まれ。ブルグミュラーを北の大地で弾いてすごした昭和時代、もっとも得意とする曲は「さようなら」。個人団体「ぶるぐ協会」調査員(00002)、広報担当。 東京芸術大学音楽学部楽理科卒、同大学院音楽研究科修士課程修了。20世紀音楽、武満徹研究。大学院修了後より同大学非常勤講師(「音楽研究センター」所属)、日本音楽学会本部事務を務めるかたわら、NHK-FM「あさのバロック」、季刊「エクスムジカ」演奏会評、東京交響楽団定期演奏会サントリーシリーズ解説等の執筆を行う。2006年3月よりPTNAにてブルグミュラー研究プロジェクトを開始。2007年12月シドニーMacquarie大学大学院 Master of translation and interpretation修了。

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