すばらしい作曲家の音楽を、ひとりでも多くの人と共有したい。そんな思いを抱く音楽家や愛好家たちが、作曲家ごとにグループを結成して活動しているのをご存知でしょうか? 活動はコンサート、研究会、講座、出版、楽しく語らうサロンまでとさまざま。どのグループも非営利目的です。つまり、愛する作曲家のために時間もエネルギーも惜しまずに集い、充実した成果をあげているのです。年会費は数千円程度。およそ専門書一冊分の金額で、コンスタントにその作曲家についての最新情報が伝えられ、割引で演奏会も楽しめるのだから、気になる協会にはいくつも掛け持ちして入会するのもアリかも。まずはどんな作曲家の協会がどんな活動をしているのかチェックしてみましょう。あなたも自分の好きな作曲家の協会を立ち上げてみては?!(取材・文/飯田有抄)

日本アレンスキー協会
川染雅嗣先生 インタビュー
川染雅嗣先生

 ロシア音楽史のなかで、チャイコフスキーとラフマニノフの中間の世代にあたるのがアントン・アレンスキー(1861~1906)だ。同時代人にはタネーエフ、リャードフ、グラズノフらもいる。彼らは1880年代に活躍し始めたことから「80年代組」と呼ばれるが、この世代の音楽研究は、これまでほぼ手つかずであった。

「30年近く前に、アレンスキーのピアノ三重奏曲1番3楽章を演奏したのをきっかけに調べてみたんですが、ほとんど資料がありませんでした。同時代の作曲家たちにも面白い作品が多いのに知られていない。そこで彼らの作品を研究し、普及させる目的で、この協会を設立しました」  ロシア語を専門とする札幌大学の高橋健一郎氏と組み、2009年9月に設立記念プレコンサートを札幌で開催。歌曲、2台ピアノ、ピアノ三重奏を含む意欲的なプログラムで、地元メディアはもとより朝日新聞や毎日新聞でも報道された。

「本部は札幌です。僕の出身地で協力者が多いということもあるのですが、気候風土がロシアに近く、ロシア人の方も多く暮らしていて何かと交流があるんです。何でも東京から発信されるのが当たり前の世の中ですから、地方発信の文化を作ろうというねらいもあります。札幌を中心に活動するアーティストたちに協力してもらっています」

例会はこれまでに5回。数々のロシア作品が演奏とお話によって紹介されてきたが、そこで配布される「資料」も非常に充実している。会報も年に1回ペース。2011年のアレンスキー生誕150周年にはシンポジウムとコンサートが大々的に開かれた。

「日本では楽譜出版が遅れていますので、協会できちんとした校訂譜を作りたいと思っています。また、ロシア人講師を招き、ロシア音楽だけに特化したセミナーやコンクール開催も実現させたいですね。アレンスキーの練習曲集は教育的にも優れた内容ですので、多くの指導者の方々に知ってもらいたいです」

ウェブサイト

インターナショナル・フリードリヒ・クーラウ協会
石原利矩先生・塩入加奈子先生インタビュー

"知られざる有名な作曲家"フリードリヒ・クーラウ(1786~1832)。「ソナチネアルバム」でおなじみだが、それ以外の作品や、生涯についてはほとんど知られてこなかった。「私はフルート奏者なので、絶版のフルート作品の楽譜をデンマークの図書館で入手したのが研究の始まりです。ちょうどその年(1986年)、ゴーム・ブスクさんという研究者がクーラウについての博士論文を出版されたので、彼に連絡をとって交流を深め、1999年に協会を設立しました」(石原)  設立当初より劇付随音楽『妖精の丘』、オペラ『ルル』などを日本初演し注目を集めた。会員にはフルーティスト100名程がすぐに集まり、それにピアニストが続いた。 「ピアノ奏者にとっては『ソナチネ』のイメージがあまりに強いクーラウですが、協会活動を通じて知られざる作品群と出会い、いい意味でそれまでのクーラウ像が崩れていきました。ベートーヴェンのソナタに匹敵するほど、クーラウのソナタも大曲でテクニカルです。一方で、易しいレベルの連弾曲などもあります」(塩入)

ブスク氏と石原先生の校訂により、「クーラウ・ピアノソナタ曲集」(全4巻、初版以来絶版だった19曲を収録)が昨年10月に発刊された。それに伴い、ヤマハ銀座店でセミナーも開催した。 「息の長い事業として、今後できるだけ多くの作品を出版したいと考えています。彼の『ソナチネ』はある意味、有名になりすぎたんです。それだけではクーラウの本質に焦点が当てられていません。知られざる作品に光を当てて世に真価を問う。それが協会の目的です」(石原)

年2回の定期演奏会は東京を中心に、福岡、静岡、大阪などで行って来た。ウェブページでは作品紹介として、石原先生が音楽的響きにこだわって制作するMIDI音源を公開中。年1回発行の会報は研究論文、読み物、会員の声を掲載。メールマガジンも月1回配信し、活発に情報発信を続けている。

ウェブサイト

日本ショパン協会
事務局長 梶村英樹氏インタビュー

 作曲家協会として、長い歴史がある。1960年に設立され、これまでに260回を超える例会、コンクール、フェスティバルを開いてきた。過去から現在に至るまでの会長、副会長、理事、顧問には日本のピアノ文化をリードしてきた、そうそうたるメンバー(評論家、ピアニスト、研究者)が名を連ねる(井口基成、安川加壽子、園田高弘ほか)。1966年4月の最初の例会から作られている会報は、解説文やレポート記事、エッセイなどを収めており、これは日本のピアノ音楽史にとっての重要な資料。2010年には、過去の会報が民音音楽博物館で展示された。

「歴史ある協会ですが、時代の変化とともに活動のあり方が見直されています。これまで『会員』は理事、支部長の先生方のみを指す団体でしたが、昨年から、広くショパンの音楽を愛するピアノ関係者、また愛好家の方々にも会に参加していただけるよう、『会員制度』を新たに設けたばかりです。よりオープンな団体を目指して、今、協会は過渡期を迎えています」(梶村氏)  長年、ピアニストの登竜門的なコンサートであった例会は、2008年より「パウゼ」シリーズとして出演者を一般公募するようになった。演奏のみならず、プログラム構成なども審査の対象とし、総合評価で出演者が決められる。

  また、リサイタルですぐれたショパン作品の演奏をした若手ピアニストに対して、「日本ショパン協会賞」が贈られている。1974年からの歴代受賞者たちは、日本を代表するピアニストに成長している。
 2010年のショパン生誕200年を記念してスタートした「ショパン・フェスティバルin 表参道」では、例年5月末から6月冒頭にかけて、昼夜2部制で演奏会を行っている。ショパンの作品を様々な角度から深く掘り下げ、毎年テーマ性のあるプログラムが組まれる。2013年は「ショパンの『こころ』」を浮き彫りにする作品群が取り上げられる予定だ。

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