19世紀ピアニスト列伝

ジギスモント・タールベルク 最終回:教師としてのタールベルク

2014/09/24

最終回:教師としてのタールベルク

今日でタールベルクの章は最終回です。卓越したピアニストだったタールベルクが教師になると、生徒に実演しながら詳細な表現の指示を出しました。テキストの後半は、マルモンテルが好んだ人相の描写です。

作曲家、ピアニストとしてタールベルクがピアノの流派に与えた多大な影響には、教授としての彼の振る舞いを加味しなければならない。タールベルクは、幸運にも彼の助言を受けたピアニストたちを小節ごと、フレーズごとに見守るのではなく、生徒がタールベルクの曲―それは大概タールベルクのレパートリーだった―を演奏した場合、今度は自身が強弱やアタックを指示しながら弾いて見せた。多くの弟子たちが多少なりとも持ち続けたあれら全ての美点の中で最も際立っていたのは、音の出し方、音の運び方、抑揚の付け方に関する驚くべき技法だった。ぎこちなさや、むやみに力を使うことは決してなかった。ピアノがひどく扱われたり、乱暴に扱われたりすることはなかった。

タールベルクショパンのように、絶えず浅いペダルと深いペダルを交互に、あるいは同時に用いていたが、いかに敏感な耳も一つとして変則的な音を聴きとることはできなかった。更に次のことを特記しておこう。この堂々たる演奏には、音楽的な語り口の考え抜かれた構成、効果のグラデーションが、そして軽快さや華やぎのあるパッセージの徐唱風の部分には特別の明快さ、透明さがあった。

正当な根拠があって言われることだが、表情は心の状態を反映し、人はぞれぞれ自分の心の顔立ちを持っている。芸術家の人相にもまた、しばしば熱狂、夢想、瞑想、ないし活気が刻印されている。人は往々にして自身の才能を人相とするものだ。タールベルク[の人相]は、そのことを顕著に証明している。細くくっきりとしてバランスの良い輪郭によって彼の表情には、彼の人柄に幾度となく見られた高貴さの印が表れていた。彼の中には、最上の教育でさえもそれに代わるとは限らない、あの生来の気品に恵まれた名家の人の姿が認められた。誇りを湛えた眼差し、浅く善良で用心深い微笑、真の紳士のそれのように昂然としてのけぞった頭。

タールベルクは1871年4月27日にナポリで亡くなった1。働き盛りで才能の絶頂の只中に、愛された名前、芸術の歴史と切り離すことのできない名前を残して。演奏家として彼の影響力は相当なもので、幾らかの誇張こそあれ、その影響は現代のヴィルトゥオジティに長足の進歩を残した。作曲家として、タールベルクは幻想曲の新しい形式を創造し、真の価値ある独創的な作品を残した。この二つながらの肩書きをもって、タールベルクは移行的時代の最も優れた体現者として残り続けるだろう。

  1. 原注:彼は義理の父、有名なラブラーシュの所領であるポジリッポに没した。ここで彼は最後の音楽的着想から霊感を得、それが『ポジリッポの夜会』というタイトルで出版された。S. タールベルク、享年59。君主に相応しい壮麗な葬儀が未亡人、友人、ナポリの愛好家の同胞によって執り行われた。

上田 泰史(うえだ やすし)

金沢市出身。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学修士課程を経て、2016年に博士論文「パリ国立音楽院ピアノ科における教育――制度、レパートリー、美学(1841~1889)」(東京藝術大学)で博士号(音楽学)を最高成績(秀)で取得。在学中に安宅賞、アカンサス賞受賞、平山郁夫文化芸術賞を受賞。2010年から2012まで日本学術振興会特別研究員(DC2)を務める。2010年に渡仏、2013年パリ第4大学音楽学修士号(Master2)取得、2016年、博士論文Pierre Joseph Guillaume Zimmerman (1785-1853) : l’homme, le pédagogue, le musicienでパリ=ソルボンヌ大学の博士課程(音楽学・音楽学)を最短の2年かつ審査員満場一致の最高成績(mention très honorable avec félicitations du jury)で修了。19世紀のフランス・ピアノ音楽ならびにピアノ教育史に関する研究が高く評価され、国内外で論文が出版されている。2015年、日本学術振興会より育志賞を受ける。これまでにカワイ出版より校訂楽譜『アルカン・ピアノ曲集』(2巻, 2013年)、『ル・クーペ ピアノ曲集』(2016年)などを出版。日仏両国で19世紀の作曲家を紹介する演奏会企画を行う他、ピティナ・ウェブサイト上で連載、『ピアノ曲事典』の副編集長として執筆・編集に携わっている。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会研究会員、日本音楽学会、地中海学会会員。

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