19世紀ピアニスト列伝

ルイス=モロー・ゴットシャルク 第4回 :ショパンを思わせる容姿と性格

2014/06/17

若き日のL. M. ゴットシャルク
(フランス国立図書館電子資料サイトGallicaより)
ショパンを思わせる容姿と性格

ゴットシャルクとショパンは、それぞれアメリカとポーランドを代表する、民族色の強い作曲家としてしばしば比較されます。 しかし、彼らの共通点はそれだけではありません。両人を直接知る著者のマルモンテルは、貴族的な顔立ち、神経質で病的なほど敏感な感受性という点でも二人には類似点があったと言います。ショパンがゴットシャルクのデビューコンサートを聴いて賞賛したのは、そこに自分自身の面影を見出していたからなのかもしれません。

エレガントで上品、かつまったくもって貴族的な若きゴットシャルクは、ショパンと大変に似たところがあった。ほっそりとして整った顔立ち、面長で、優しく夢見るような眼差し、憂いを湛えた個性。精神もまた、この身体的な類似と対応を示していた。過敏な、ほとんど病的な感受性、神経質な性格、選り抜かれた素質。ゴットシャルクは卓越した教育を受け、いくつもの言語を話し、熱心に行われた厳格な勉学によって初期の知識を揺るぎないものにした。向上し霊感の枠組みを押し広げながらも、彼は非常に際立った個性を変えることなく保っていた。そしてショパンとの類似にもかかわらず、彼は非常に異なる源泉から[着想を]汲み出した。それゆえ、彼の中には模倣不可能な様式を模倣する血の通わない人間の姿はなく、ショパンを継承者たることを目指すことなく人々に称えられる大家の特徴を備えた独自の気質が認められる。

いくらかの細部、旋律の節回し、響きのうねりはショパンを思い出させることもあろうが、それでも全体としては全く独特な色合いを保っている。ショパンとは違った感情に鼓舞され、別の空の下に生み出されたゴットシャルクの作品は、煌き、精細、決然とした、個性的かつ地方的な足取りを備えている。ゴットシャルクの和声はうっとりするような優雅さを湛えているが、ショパンに見られる念の入った和声―非常に丈夫な横糸をもつその濃密な織り目は、可能性の極限に至っている―の洗練は滅多に示さない。

年を経るにつれて、ゴットシャルクの風貌は男らしくなった。濃褐色の顔色、濃い口ひげ、頭の動かし方には、軍隊的な雰囲気があった。彼は繊細で魅力的な精神と、教育がもたらすどんな偽りのうわべよりもずっと好ましい生来の気品を備えていた。彼の魅力的な会話には奥行がった。真剣に考えられた彼の手紙は、正しい分別、習慣的に各事柄について道理を求める観察の思慮深い性格をはっきりと示していた。私は彼が申し分ない美的判断力と非常に高度な視点から美学的な諸問題を扱ったいくつもの批評記事を大変興味深く呼んだことを覚えている。ゴットシャルクの絶え間ない旅行によって、彼がパリから遠ざけられたことは惜しむべきである。そこは彼の本当の場所だった。そこで、彼は自らを完全に発展させることができたであろう。

その上、彼はフランスに強い愛着を持っていたし、いつもこの街に戻ってくると語っていた。彼はブラジルで急死した。それは、とあるコンサートの翌日のことで、喝采の只中に大きな富を「作り直す」まさにその時だった。というのも、最初に築いた富は、あまりに寛大な態度と経営不全により衰退えていたからだ。私の海外の友人は何人もこの熱っぽい人生の、私には無縁の波乱について知らせてくれた。演奏会で稼いだ相当の金額は、跡形もなく彼の指の隙間から滑り落ちていった。一度ならず、いくらかのとても献身的な友人は、不運からくる厄災を立て直すために彼を助けに行かねばならなかった。慈善的な熱意と急速に勝ち得た勝利という点でリストのライバルである彼は、健康と同様に富を惜しむことはなかった。


上田 泰史(うえだ やすし)

金沢市出身。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学修士課程を経て、2016年に博士論文「パリ国立音楽院ピアノ科における教育――制度、レパートリー、美学(1841~1889)」(東京藝術大学)で博士号(音楽学)を最高成績(秀)で取得。在学中に安宅賞、アカンサス賞受賞、平山郁夫文化芸術賞を受賞。2010年から2012まで日本学術振興会特別研究員(DC2)を務める。2010年に渡仏、2013年パリ第4大学音楽学修士号(Master2)取得、2016年、博士論文Pierre Joseph Guillaume Zimmerman (1785-1853) : l’homme, le pédagogue, le musicienでパリ=ソルボンヌ大学の博士課程(音楽学・音楽学)を最短の2年かつ審査員満場一致の最高成績(mention très honorable avec félicitations du jury)で修了。19世紀のフランス・ピアノ音楽ならびにピアノ教育史に関する研究が高く評価され、国内外で論文が出版されている。2015年、日本学術振興会より育志賞を受ける。これまでにカワイ出版より校訂楽譜『アルカン・ピアノ曲集』(2巻, 2013年)、『ル・クーペ ピアノ曲集』(2016年)などを出版。日仏両国で19世紀の作曲家を紹介する演奏会企画を行う他、ピティナ・ウェブサイト上で連載、『ピアノ曲事典』の副編集長として執筆・編集に携わっている。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会研究会員、日本音楽学会、地中海学会会員。

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