第29回 マズルカ第30番(3つのマズルカ Op.50より 第1曲 ト長調)
1841~42年に作曲、1842年出版。レオン・シミトコフスキ氏に献呈。
ノアンに2度目の滞在をしたこの時期(1841年6月~)には、傑作と言われる作品がいくつも生まれています。「ポロネーズ 嬰へ短調Op.44」「プレリュード 嬰ハ短調 Op.45」「バラード 第3番Op.47」「ノクターン Op.48」「幻想曲 Op.49」etc。サンドは自身の小説の中で、ショパンが作曲する様子を「霊感と苦悩に満ちた創造行為」と呼び、共感を持って次のように描写しています。
彼の創造の行為は、自発する、奇蹟とも思われるものだった。求めることなく、予見することなく、彼はそれを発見するのであった。(中略)それをきちんとしたかたちで見つけなおすことができないという心残りが、彼を一種の絶望の中に落としこむのだった。自分の部屋に丸何日も閉じこもり、泣き、歩きまわり、ペンを何本も折り、1小節を100回も繰り返し、また変え、また消し、次の日また手をつけるのだった。(サンド『わが生涯の歴史』より)
同じ頃、親友の画家ドラクロワも楽園の地ノアンにアトリエを構えており、ショパンと共に充実した創作活動を展開していました。作品50のマズルカは、革新的芸術家同士が相対することによってみなぎる活力が生み出した作品だと思います。3曲をソナタのようなつながりで作曲していることも、規模が拡大していくこの頃のショパンの特徴の表れです。
●第1曲 ト長調
〔A〕1~16小節 ト長調・・・・・・・マズール
〔B〕17~24小節 ホ短調・・・・・・ マズール+オベレク
〔A〕25~40小節 ト長調
〔C〕41~56小節 ハ短調~変ホ長調~ト短調~ハ長調~ロ長調・・・・クーヤヴィアク
〔A〕57~72小節 ト長調
〔Coda〕a 73~88小節・・・・・・・・ マズール
b 89~104小節・・・・・・・・マズール
付点リズムが特徴のマズールが作品全体を支配する、ロンド形式の快活なマズルカです。ドミナント(V度)から始まる力強い〔A〕がロンド主題となり、非常に印象的です。その間に挟まれた部分に「ショパンらしさ」と言える繊細さが見られます。E音上で拍子感を失うほど軽やかに舞うオベレク〔B〕、まるでチェリストが心震える歌を奏で始めるようなクーヤヴィアク〔C〕。作品の核と言えるショパンの心のひだはこうした「陰」に表現されており、演奏者がもっとも神経を尖らせる部分です。コーダは「陽」のエネルギーに満ち溢れていますが、準固有和音が多用され、今現在の幸福が未来へ(2曲目へ?)と続いていくように曲を閉じています。ショパンの人生や音楽がさらなる発展を遂げていくことを予感させる作品です。
東京音楽大学付属高校、同大学ピアノ演奏家コースを経て、2002年同大学院修士課程修了。在学中、特待生奨学金を得る。1997年モーツァルテウム音楽院サマーアカデミーに奨学金を得て参加、A.ヤシンスキ氏に師事。2000年卒業演奏会、讀賣新人演奏会に出演。ロンドン英国王立音楽院に奨学金を得て短期留学。2001年第25回ピティナ・ピアノコンペティション特級金賞グランプリ受賞。2002年日本フィルハーモニー交響楽団と共演。2004年、2005年アンサンブル信州in宮田と共演。これまでにヤマハ銀座店、越谷にてリサイタル開催。ピアノを神野明、加藤一郎、加藤恭子、播本三恵子、倉沢仁子、C.ベンソン各氏、室内楽を土田英介、迫昭嘉各氏に師事。現在、東京音楽大学ピアノ科助手。ピティナ主催「学校クラスコンサート」、ヤマハ主催「ピアノ名曲コンサート」で活躍中。