マズルカを味わう

第26回 マズルカ第27番(4つのマズルカ Op.41より 第2曲 ホ短調)

2009/05/07
● 第2曲 ホ短調

〔A〕ホ短調 1~16小節・・・・・・・クーヤヴィアク
〔B〕ロ長調 a 17~32小節・・・・・・オベレク
        b 33~40小節・・・・・・クーヤヴィアク
        a 41~56小節・・・・・・オベレク
〔A + Coda〕ホ短調 57~68小節 ・・・クーヤヴィアク

 イ短調のドミナントという借用和音で始まり、伴奏の低音には運命を表しているであろう空虚5度が鳴り続ける。メロディーには起伏も少なく、憂鬱なクーヤヴィアクがとぼとぼと歩みを進めます。
5度上のロ長調に転調し、オベレクの要素が現れる中間部から音楽が少しずつ動き出します。冒頭の暗黒の世界から朝日が昇るように光に満ちた世界が広がる、そのコントラストは見事です。マジョルカ島のパルマでの期待に満ちた生活をパリの友人に宛てて書いたショパンの文面に、中間部のきらめくような色彩を感じ取ることができないでしょうか。

『穏やかな天候。椰子、オリーヴ、オレンジ、レモン、イチジク、ざくろの木、トルコ石色の空、瑠璃色の海、エメラルド色の山々。世界で最も美しいもののそばにいて、身も心もいっそう良くなっている。』

Dis音が連打される印象的なオベレク(この連打を「前奏曲集」の「雨だれ」を連想させると書く解説者も...)の後、冒頭の憂鬱なモチーフが美しい歌となる瞬間(33~40小節)がやってきます。そして次第に激しくなるオベレクのDis音と共に気持ちを高ぶらせていくと、絶望に満ちフォルティッシモに豹変した冒頭テーマが突きつけられます。どこにいても孤独に苛まれない時はない、物静かなショパンの心がピアノに向かってぶつけた真実の叫びを聞くようで、なんとも痛ましい作品です。

人間の感情のあらゆるひだを音にしたショパン。その色彩の妙をひとつでも多くキャッチし音色に反映させたいものです。


佐藤 展子(さとうのりこ)

東京音楽大学付属高校、同大学ピアノ演奏家コースを経て、2002年同大学院修士課程修了。在学中、特待生奨学金を得る。1997年モーツァルテウム音楽院サマーアカデミーに奨学金を得て参加、A.ヤシンスキ氏に師事。2000年卒業演奏会、讀賣新人演奏会に出演。ロンドン英国王立音楽院に奨学金を得て短期留学。2001年第25回ピティナ・ピアノコンペティション特級金賞グランプリ受賞。2002年日本フィルハーモニー交響楽団と共演。2004年、2005年アンサンブル信州in宮田と共演。これまでにヤマハ銀座店、越谷にてリサイタル開催。ピアノを神野明、加藤一郎、加藤恭子、播本三恵子、倉沢仁子、C.ベンソン各氏、室内楽を土田英介、迫昭嘉各氏に師事。現在、東京音楽大学ピアノ科助手。ピティナ主催「学校クラスコンサート」、ヤマハ主催「ピアノ名曲コンサート」で活躍中。

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