マズルカを味わう

第20回 マズルカ第21番(4つのマズルカ Op.30より 第4曲 嬰ハ短調)

2008/09/25
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* 第21番 嬰ハ短調 *

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●4つのマズルカ Op.30 第4曲 嬰ハ短調

 作品30の最後は第3曲の変ニ長調と異名同音(Cis)の短調、再び暗く重たいムードになります。「陽」を経過することで際立つ「陰」の世界はまるで幻影のようです。全体的に音の動きが少なく、V度~I度のシンプルな和声進行が主体のマズールのテーマからは輝かしさがまったく聴こえてきません。

 属9の和音と刺繍音、そしてDis - Gis - Cisと空虚5度の関係で移り変わるハーモニーの低音が憂鬱さをもたらす序奏。その後、3度で動くテーマを持つ[A]が始まります(5~32小節)。第3曲終わり(87~94小節)の平行3度のテーマが、第4曲への架け橋となってつながりを持たせる技は見事です。弱音で始まるマズールを伴奏するのは、ギターを模したようなオベレク風のアルペジオ。なんともおしゃれです。中間部は「嵐の前の静けさ」とも言うべき虚無感を湛えたショパンと([B]33~64小節)、情熱の嵐が一気に噴き出すショパン([C]65~96小節)の姿が見える大事な場面です。3度転調を繰り返し嬰ヘ長調まで到達した場所が、まさに4曲全体のクライマックスなのです。彼の様々な思いがここに凝縮されている恍惚の瞬間です。その後序奏から[A]が再現され哀愁漂うコーダとなります。1小節のメロディーがリフレインのように5回繰り返されると、光を失っていくように半音階を滑り落ち暗闇に吸い込まれて曲は閉じられます。

 ショパンのマズルカと対峙し、全曲の3分の1が経過しました。(いつもご覧下さっている皆様、この場をお借りし御礼申し上げます!)ここまではジョルジュ・サンドに出会う前の20~26歳のショパンですが、青春真っ只中にも関わらず一貫して受ける印象は激しい孤絶感です。これは彼の作品によく見られる刺繍音(ソラソ、レミレ、ラシラなど隣り合った音を縫うように行き来する音型)に表れていると筆者は感じていますが、特に作品30ではこの音型がショパンの心に寄り添うように印象的に響いて胸を打ちます。人知れず涙をこぼしながら、やるせなさに震えながら、また不器用にも大胆さを見せながら心の内を歌ってきたショパン。この曲集の最後はやはり孤独に苛まれてピアノの前に伏す彼の姿が映し出されています。もしかしたらこれが故郷を離れてから6年間に彼が感じていた思いのすべてなのかもしれない、と感じるほど濃密な作品です。


佐藤 展子(さとうのりこ)

東京音楽大学付属高校、同大学ピアノ演奏家コースを経て、2002年同大学院修士課程修了。在学中、特待生奨学金を得る。1997年モーツァルテウム音楽院サマーアカデミーに奨学金を得て参加、A.ヤシンスキ氏に師事。2000年卒業演奏会、讀賣新人演奏会に出演。ロンドン英国王立音楽院に奨学金を得て短期留学。2001年第25回ピティナ・ピアノコンペティション特級金賞グランプリ受賞。2002年日本フィルハーモニー交響楽団と共演。2004年、2005年アンサンブル信州in宮田と共演。これまでにヤマハ銀座店、越谷にてリサイタル開催。ピアノを神野明、加藤一郎、加藤恭子、播本三恵子、倉沢仁子、C.ベンソン各氏、室内楽を土田英介、迫昭嘉各氏に師事。現在、東京音楽大学ピアノ科助手。ピティナ主催「学校クラスコンサート」、ヤマハ主催「ピアノ名曲コンサート」で活躍中。

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