第10回 マズルカ第11番(4つのマズルカ Op.17より 第2曲 ホ短調)
** 第10回 マズルカ第11番 **
1830年7月27日、パリでは絶対主義時代を取り戻そうとする王政体制が民衆の怒りを買い7月革命が勃発。その後即位したルイ・フィリップは自らを「フランス国民の王」と名乗るも、上層階級によって支援されたその政策はパリを一触即発の生活環境にさせてしまいます。11月にはショパンの故郷でも、ロシア支配下からの独立を目指しワルシャワ蜂起が起こりますが、すぐに鎮圧されます。こうした情勢の中ショパンは、祖国を脱出し自由を求めてパリに集まってきた多くの上層の人々と交流していたのです。「フィリップ王の支持者たちは好かない。僕自身は革命派だ。だから金銭は僕にとってなにものでもない。大切なのは友情だ。」実際の暴徒には加わらず彼が全身全霊で望み続けていたのは、ピアニストとして独自の芸術の世界を創りあげること、音楽に思想を反映させることでした。国家も民衆も苛立ち喧騒にあふれた社会の中で、静かに、しかし情熱的に自己に集中していった。楽譜を見ていると、そんな彼の姿が浮かびます。
3部形式の始まりはメランコリックなクーヤヴィアク。しかし強弱の指示はフォルテであり、彼の言葉にならない様々な思いの強さがこの4小節に表れています。その後マズールのリズムに変わり、右手の音が戯れていきます。心の痛みや渦巻く感情もいっしょに空に散ってゆけばよいのに・・・そんなふうに聞こえてはこないでしょうか。この作品で注目すべきは第6音のA(ラ)。前半ではこの音にシャープが付いたり(Ais)取れたりして意識されます。強い信念と同在する迷い。青年の不安定な心の内は、白と黒の鍵盤を行ったり来たりするこの動きにも反映されています。
中間部25小節からはショパン得意のファンタジーの世界。色のない真っ白な印象のハ長調となり、出だしのクーヤヴィアクのリズムがオベレク風の空虚5度の伴奏に乗って漂います。ここでは両手の第6音がフラット(As)とナチュラルを何度も行き来し、その憂鬱な迷いは次第に高まってAs-A-Ais-Hと力強く登っていきます(stretto とcrecsendo)。迷いを振り切るようにテーマを再現するA音は、アルペジオ風に響く前打音で強調され、出だしよりも強い表現になっています。しかし心の葛藤は拭い去れず、Ais-Aが1小節おきに現れながら次第に美化されていくかのように終わります。
東京音楽大学付属高校、同大学ピアノ演奏家コースを経て、2002年同大学院修士課程修了。在学中、特待生奨学金を得る。1997年モーツァルテウム音楽院サマーアカデミーに奨学金を得て参加、A.ヤシンスキ氏に師事。2000年卒業演奏会、讀賣新人演奏会に出演。ロンドン英国王立音楽院に奨学金を得て短期留学。2001年第25回ピティナ・ピアノコンペティション特級金賞グランプリ受賞。2002年日本フィルハーモニー交響楽団と共演。2004年、2005年アンサンブル信州in宮田と共演。これまでにヤマハ銀座店、越谷にてリサイタル開催。ピアノを神野明、加藤一郎、加藤恭子、播本三恵子、倉沢仁子、C.ベンソン各氏、室内楽を土田英介、迫昭嘉各氏に師事。現在、東京音楽大学ピアノ科助手。ピティナ主催「学校クラスコンサート」、ヤマハ主催「ピアノ名曲コンサート」で活躍中。