第07回 マズルカ第7番(5つのマズルカ Op.7より 第3曲 ヘ短調)
** 第7回 マズルカ第7番 ヘ短調 Op.7-3 **
空虚5度が響く中、「F E C(ファミド)」がコントラバスのごとく低音で繰り返されるミステリアスな序奏。これに続く本編の踊りは、3部形式のとても充実したマズルカです。1小節=54という早めのテンポの中、オベレク、マズール、クーヤヴィアク、3種類すべてのリズムと特徴が哀愁漂う旋律と共に現れます。
A部分(9~40小節)は生き生きとしたオベレクです。ギターをかき鳴らしているかのようなアルペジオの伴奏が特徴の前半と、クーヤヴィアクのリズム(タタ タン タタ)を織り交ぜながら、strettoの指示と左手の連続する和音が渦巻きのように回転して踊る様を想わせる後半。B部分の前半は力強いマズール、変ニ長調となって和音が飛び散り華やかな一面となります。そして後半はショパン得意の「哀愁のクーヤヴィアク」。歌うのは左手、まさしくチェロの音色です。非和声音がたくさん含まれた右手のハーモニーも「哀愁」を後押しします。再び序奏とA前半のオベレクに戻り、そのリズムが霧の中に消えてゆくように終わります。
印象的なのは、リズミカルな中に暗い影を落としてゆくメランコリックなムードです。使われている調性が、ショパンのその戦慄の顔を浮き彫りにする要因のひとつのように思えます。冷たい表情の目の奥に情熱を秘めた「ヘ短調」は、ピアノ協奏曲第2番やバラード第4番、さらにはショパンの絶筆となった作品といわれるOp.68-4のマズルカなどに代表される調性であり、いずれも聴く者の魂を揺さぶる名曲です。陰りの見えるもうひとつの要因は、旋律の巧みな扱い方にあるのではないでしょうか。これは彼の作品すべてに共通することですが・・・シンプルな順次進行、ここでは弱音で奏することが基本の旋律。アーティキュレーションやアクセント、装飾音、con forza(力強く)やdolce(優しく)、付点リズムの上に書かれたrubato(テンポを自由に揺らして)など、その指示は前述した他のどの作品よりも細かいのです。そこに彼のこだわり、民族性が色濃く感じられます。またJ.S.バッハの平均率を研究していたショパンですが、その第1巻13番ヘ短調のフーガ冒頭を意識してこのマズルカの旋律を作っていることは明らかで、若く才能あふれる音楽家の誠実な一面を見る思いがします。
東京音楽大学付属高校、同大学ピアノ演奏家コースを経て、2002年同大学院修士課程修了。在学中、特待生奨学金を得る。1997年モーツァルテウム音楽院サマーアカデミーに奨学金を得て参加、A.ヤシンスキ氏に師事。2000年卒業演奏会、讀賣新人演奏会に出演。ロンドン英国王立音楽院に奨学金を得て短期留学。2001年第25回ピティナ・ピアノコンペティション特級金賞グランプリ受賞。2002年日本フィルハーモニー交響楽団と共演。2004年、2005年アンサンブル信州in宮田と共演。これまでにヤマハ銀座店、越谷にてリサイタル開催。ピアノを神野明、加藤一郎、加藤恭子、播本三恵子、倉沢仁子、C.ベンソン各氏、室内楽を土田英介、迫昭嘉各氏に師事。現在、東京音楽大学ピアノ科助手。ピティナ主催「学校クラスコンサート」、ヤマハ主催「ピアノ名曲コンサート」で活躍中。