第15回 タイ演奏旅行記(一)
成田空港にて
乗り継ぎの北京空港
スワンナプーム空港・混雑する税関
2010年2月12日(金)、タイ・バンコクのドイツ文化センターにて、私たちは2台ピアノのコンサートを行いました。私たちの初めての海外公演となり、多くのことを学ばせて頂いたことはもとより、タイ国のピアノ事情やピアノデュオの受容・普及状況の一端を実地に見聞する貴重な機会ともなりました。日本でピアノに取り組まれている皆さんにとってもご参考に資するところが少なくないと思われます。ここから四回にわたり、「タイ演奏旅行記」と題してご紹介させていただくことと致します。
2001年2月に本格的なコンサート活動を開始してからこれまでの間、私たちの演奏活動は東京及びその近隣の地域にて行って参りました。機会があれば是非、他の場所でもコンサートを行いたいと考えておりましたが、関東を離れた最初のコンサートが、日本国内を飛び越えて海を渡った遠い異国になってしまったというのも、思えば不思議な成りゆきではありました。幸運な出会いに恵まれたことはもちろん、私たちのこれまでの活動の結実の一つの現れかたではなかったかとも思われます。
私たちはかねてより、全世界、全時代、全ジャンルのピアノデュオの名作と出合うことを願って活動を続けてきたことから、楽譜の入手や情報の収集にあたっては、これまで国内外の多くの方々と交流をさせて頂いてきました。活動を開始した当初より、多くの作曲家やそのご家族の方々に、書簡、葉書、ファクシミリ、電子メール、電話など、時と場合に応じた適切な通信手段を選びながら連絡をとらせて頂きました。もちろん、可能であれば直接お会いさせて頂くようなこともありました。作曲家、ご家族、関係者の方々の国籍は本当にさまざまです。日本を始め、ヨーロッパ、アメリカはもちろんのこと、南米ブラジルの方々に大変お世話になったことも忘れられません。
インターネットを通じてのやり取りが本格的なものになってきたのは、2004年、通算で第20回目のコンサートを過ぎた頃からであったと思います。世界中の図書館、大学、作曲家協会などにも電子メールによって瞬時に連絡が取れ、また時間を置かずにお返事を頂けることが多くなりました。音楽関係者の使うSNSにも入会し、そこを通じて新しい人間関係が広がったことで、世界各国の新進気鋭の作曲家から新作が届けられたり、演奏のご感想を頂いたりするようにもなりました。そうして届けられた皆さんの反響と率直なお声が私たちの活動を支える原動力の一つになったことは言うまでもありません。そして、時代は進み、ネットワーク上ではかつて音声が中心であった演奏の披露も、映像とともに世界中の音楽ファンに届けることが容易になりました。最近では、自分たちの演奏を公開しながら、同時に、ピアノ連弾や2台ピアノを楽しんでいる世界中の方々の姿を自宅に居ながらにして閲覧することができるまでになっています。実際、私たちのもとに国内外からメッセージが届けられる頻度はますます増加しています。
このようにして多くの人々とつながりができた中に、或るタイ人の少年ピアニストとの出会いありました。今回タイでのコンサートを実現し得たきっかけの一つに、このようなネットワークを介したコミュニケーションがあったことは事実です。そのタイ人の少年ピアニストは弟とともにピアノを学んでおり、ソロだけでなく、兄弟でピアノ連弾、2台ピアノを日常的に楽しんでいるとのこと。彼ら兄弟は、私たちの演奏する作品に大変な興味を示してくれました。たまたまそのとき彼らはモスクワに住んでおり「モスクワではどの教室にも必ずピアノが2台あり、皆が2台ピアノ作品を重要だと思っています」との言葉が届きました。この話をしていたのは、時あたかも、私たちがプリズム社からチェルニー「2台のピアノのための速度練習曲(40番練習曲)作品299b」の楽譜を出版するお話を頂いた時期であったこともあいまって、彼の言葉が今でも私たちの印象に強く残っています。ちなみに、彼らが師事しているモスクワのピアノの先生も「チェルニーの2台ピアノ版は非常に重要です」と話してくださったとのこと。その言葉を裏付けるように、その先生は楽譜が販売されたとの情報を聞きつけるや、訪日するご友人に頼んで東京でチェルニーの楽譜を購入してもらい、プリズム社版の楽譜をモスクワでいち早く手に取られたのだとか。
ほどなく彼ら兄弟はタイに帰国し、バンコクで暮らすことになりました。ピアノのレッスンを受けるために、タイに帰国してからもモスクワには時々通っているとのことでした。私たちは兄弟のお母様とも連絡をとらせて頂いており、どちらからともなく「いつか2台ピアノのコンサートで共演出来るといいですね」と言い合っていましたが、幸いにも、そのお母様がバンコクで音楽事務所を経営しコーディネーターをなさっているMongkol Charasirisobhon氏の令夫人とお知り合いであることが分かりました。偶然にも、Charasirisobhon氏は、私たちが別のところからご紹介を頂いたプロモーターその人であったこともあり、タイでの2台ピアノコンサートの話がとんとん拍子に進められました。双方のスケジュールを調整した結果ついに、「2010年2月12日に会場を準備したので是非タイに来てください」という、願ってもないようなご招聘のお話が舞い込んだのです。Charasirisobhon氏は「タイまで来てくれさえすれば、滞在中の心配はいらない」と言って具体的な条件もお示しくださり、私たちは熟考の末、このご招聘のお話をお受けすることと致しました。(文:グループPCC)
<タイ演奏旅行記(二)に続く>