ドビュッシー探求

12の練習曲より11曲:組み合わされたアルペジオのために

2007/08/03

今回の曲目
音源アイコン 12の練習曲より11曲:組み合わされたアルペジオのために 4m44s/YouTube

この作品は1915年に作曲された12の練習曲の第11曲で、当初、2タイプ作曲されましたが、こちらをドビュッシーは選択して曲集に入れ、もう一方の作品は作品としてすら出版しませんでした。しかし、その作品は近年、「見いだされた練習曲」としてDurand社から出版されました。ここで演奏している方の作品は、滑らかで美しい前後半のアルペジオに対し、中間部は「おどけて」「楽しげに」リズミカルでお洒落、かつ自由な音楽が展開されています。12曲あるエチュードの中でも人気のある作品です。ベースに流れているのは、「レントより遅く」でも深くかかわっている、カフェなどでのダンスです。同じアルペジオでも、リストの作品に出てくるものなどとは全く異なる上品な質感です。
 出だしは、単純なようで複雑なアルペジオです。As-durの主和音のようでもあり、f-mollの主和音のようでもあります。多くの場合、単純な3和音ではなく、さまざまな付加音を伴う和音ですが、3小節目の終わりから4小節目にかけてのIV→I(サブドミナント進行)、13小節目の終わりから14小節目にかけてのV→I(ドミナント進行)など、調性が確定する部分の和音進行は特に注意を払って表現するべきです。また、例えば14小節であれば、最初はDes-dur、その後、C-durというように、和音の揺らぎを調性をとびこえて表現しています。そういうときに、ドビュッシーは強弱記号や言葉で必ずそのヒントを与えてくれます。この部分であればpからmf、sonoro(響かせて)と書いてあります。そういった細かい表記が調性や和声の変化を正しく感じながら表現できると、結果は「優美で甘美」な世界となるのです。
 演奏上困難なところは、例えば12小節から13小節ですね。ここは、練習曲集第8曲「装飾音のための」を彷彿とさせます。大切なのは、リズミカルなメロディー、上声部のアルペジオの和音の変化、バスの進行などをしっかりと把握することですね。機械的に練習してもあまりうまくいかないと思います。
 この作品も、「レントより遅く」と同じく、計算され尽くした即興性が必要になります。


金子 一朗(かねこいちろう)

1962年東京都に生まれる。早稲田大学理工学部数学科卒。本職は中・高等学校の数学科教諭。ピティナピアノコンペティション全国決勝大会で、ソロ部門特級は2003?4年ともに入選、コンチェルト部門上級で2004年に奨励賞、グランミューズ部門A1カテゴリーで2004年に第1位受賞。2005年における同コンペティション ソロ部門特級でグランプリ(金賞)および聴衆賞、ミキモト賞、王子賞、日フィル賞、文部科学大臣賞、読売新聞社賞、審査員基金海外派遣費用補助を受賞。 第1回ザイラー国際コンクール・イン・ジャパン・フリー部門第2位。第1回北本ピアノコンクールH部門第1位、合わせて全部門での最優秀賞を受賞。2004年10月にリスト国際コンクールマスタークラスにてレスリー・ハワード氏の公開レッスンを受講、オランダ大使館にてリスト国際コンクール主催の演奏会に出演。2005年1月、円光寺雅彦指揮東京フィルハーモニー交響楽団と共演。2005年5月、テレビ朝日「題名のない音楽会21」に出演し、現田茂夫指揮東京交響楽団と共演。 これまでにピアノを角聖子、神野明、北川暁子、K.H.ケンマーリンク、森知英、田部京子の各氏に師事。また音楽理論を中村初穂氏に師事。
著書に『挑戦するピアニスト 独学の流儀』(春秋社刊 2009)

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