名曲喫茶モンポウ

第19回 カスキを味わう

2013/06/28
第18回カスキを味わう
 いらっしゃいませ。カフェ・モンポウにようこそ。
 今日は、フィンランドの作曲家ヘイノ・カスキ(1885-1957,フィンランド)の澄んだ響きのピアノ小品をご紹介します。
カスキ
ヘイノ・カスキ
(1885-1957,フィンランド)

 巨星墜つ――1957年9月20日、フィンランド。人々に愛された作曲家ジャン・シベリウスが91歳の天寿を全うしました。ヘルシンキ大聖堂で大規模な国葬が営まれ、沿道はその死を悼む人々で埋め尽くされました。「フィンランディア」はフィンランド第二の国歌として愛唱されており、まさに文字通り国民的作曲家でした。
 奇しくも、シベリウスの死とまったく日を同じくして、一人のフィンランド人作曲家がひっそりと旅立っていきました。シベリウスの弟子でもあったヘイノ・カスキ。享年72歳。シベリウスやパルムグレンに学び、ベルリン留学を経て、ヘルシンキの音楽教師として慎ましい生涯を送った人です。あこがれの恩師とほぼ同時に天に召されたのは、運命のいたずらでしょうか。
 カスキの作曲したジャンルは、主に、「野の小川にて」「秋の朝」などと言ったタイトルのつけられた、叙情的なピアノ小品です。その作風は、どちらかと言うとポピュラー音楽寄りのきわめて親しみやすいもので、クラシック音楽界とはまったく別のところで、フィンランド人に愛されつづけている作曲家です。
 カスキの音楽は、フィンランドでも通俗的な音楽として過小評価されがちでしたが、その真の魅力に光を当て、カスキ再評価の機運を高めたのが、ピアニストの館野泉さんです。館野さんは、フィンランド放送のスタッフからカスキの曲を紹介され、当初「『ありふれていてつまらない』と渋っていた」のが、「数曲をひいてみて新鮮な響きの発見に驚き、あとは自発的に、手に入る限りの譜を集めてみた」と述懐しています。こうして、館野さんの手により、カスキのレコードと楽譜が出版される運びとなり、フィンランドの人たちが、カスキの音楽に隠されていた新たな魅力に瞠目することとなったのです。
 今回ご紹介するのは、そんなカスキのピアノ小品から、「夜の海辺にて」Op.34-1と、「カプリの春の朝」Op.25-3です。「夜の海辺にて」は、フィンランドでもとりわけポピュラーな1曲だそうで、たゆたうような分散和音に乗せて、孤独感を漂わせながら、ノクターン風の旋律が歌われます。中間部で高音域に輝くのは、水面に映る星空でしょうか?「カプリの春の朝」は、ドビュッシーの「アナカプリの丘」と同様、南国イタリアのカプリ島が舞台ですが、タランテラやナポリ民謡を用いてイタリアを描いたドビュッシーとは異なり、あくまでフィンランド人のカスキの感性で切り取った趣。明るく澄んだ朝の描写に、南国への憧れがにじみ出ます。いずれも、硬質で透明な、クリスタルのような音遣いに、カスキの個性が光ります。
 カスキは、ピアノの高音域を多用して、光を感じさせる透明な響きを生み出しました。その光は、館野さんいわく「低く静かに射しこんできて万象を透明にみせてしまう北欧独特の光」です。私はフィンランドに住んでいないので何とも言えませんが、作品を実際に弾いてみると、肌に浸透する響きとともに、未知のはずのフィンランドの空気感や光景が朧げに浮かんでくるようで、不思議な感慨を覚えます。カスキシベリウス、パルムグレンを弾きながら、いつの間にかフィンランドを旅しているような気分に包まれる――こんな体験も、かけがえのない音楽の愉しみのひとつです。
 それにしても、透明な光にあふれたフィンランドの大自然、じっくりと味わってみたいものです。

「夜の海辺にて」Op.34-1 【 ♪ 試聴する
譜例
「カプリの春の朝」Op.25-3 【 ♪ 試聴する
譜例
参考:館野泉校訂「カスキ ピアノ小品集」全音楽譜出版社
演奏・ご案内 ―― カフェ・マスター:内藤 晃
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内藤 晃 レクチャーコンサート 音楽に「乗る」、音楽で「遊ぶ」[概要]

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内藤 晃(ないとうあきら)

 栄光学園高校、東京外国語大学卒業。桐朋学園大学指揮教室、ヤルヴィ・アカデミー(エストニア)にて指揮の研鑽を積む。チャリティー、施設慰問等の演奏活動に長年意欲的に取り組み、2006年度、(財)ソロプチミスト日本財団より社会ボランティア賞受賞。外語大在学中、CD「Primavera」(2008年3月)でピアニストとしてデビュー、「レコード芸術」5月号誌上にて特選盤に選出され、「作品の内面と一体化した純粋な表現は聴き手を惹きつけてやまない」(那須田務氏)などと高く評価される。

 現在、ピアノ、指揮、作曲、執筆の各方面で活躍。ピアニストとして、ソロ、アンサンブルの両面で幅広く活動するほか、監訳書にチャールズ・ローゼン著「ベートーヴェンを"読む"―32のピアノソナタ」(道出版)、校訂楽譜に「ヤナーチェク:ピアノ作品集1・2」「シューベルト=リスト:12の歌、水車屋の歌」(ヤマハミュージックメディア)がある。谷口未央監督による映画「仇討ち」(田原拓主演・ソーシャルシネマフェスティバル2012優秀賞受賞作品)、「矢田川のバッハ」(冨樫真主演・ショートストーリーなごや2012入賞作品)の作曲、音楽監督を務める。2013年、楽譜CDセット「マリンバ・フェイバリッツ」(野口道子編著・共同音楽出版社)のピアノ演奏を務め、伴奏譜の編曲にも参画する。横浜市栄区民文化センターリリス・レジデンス・アーティスト。(社)全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)正会員。

 これまでにピアノを城田英子、広瀬宣行、川上昌裕、加藤一郎、デイヴィッド・コレヴァー、ヴィクトル・トイフルマイヤーの各氏に、指揮を紙谷一衛、レオニード・グリンの両氏に、音楽理論を秋山徹也氏に、古楽を渡邊順生氏に、ジャズコンポジションを熱田公紀氏に師事。

ホームページ http://www.akira-naito.com/

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