名曲喫茶モンポウ

第08回 ピアノでクリスマスを

2008/12/19
第8回第8回 メリカントを味わう
 いらっしゃいませ。カフェ・モンポウにようこそ。
 いよいよ師走も半ばを過ぎ、クリスマスが近づいてきました。今日は、クリスマス・キャロルの旋律に基づいたピアノ曲を少しだけご紹介しますので、皆さんもぜひご自分でお弾きになって楽しんでみてください。
ニールセン:「楽しいクリスマス」の夢 【 ♪ 試聴する
ニールセン
カール・ニールセン
(1865-1931,デンマーク)

 「楽しいクリスマス」の夢は、皆さんご存じの「きよしこの夜」の旋律によるパラフレーズで、デンマークの作曲家カール・ニールセン(1865-1931)によるものです。1分あまりの小曲ですが、最後のAdagio以降にあらわれる高音域の装飾的なパッセージが、星の輝きを想わせるような趣で印象的です(このような、音域を空間に見立てたメタファーは、歌曲の分野でもしばしば用いられます)。ニールセンのピアノ曲は、叙情的な小品が中心ですが、独特のハーモニーがスパイスとなっていて、魅力的な佳曲が多くあります。
 ニールセンは、100クローネ紙幣に肖像がえがかれているほど、デンマークではポピュラーな存在で、今日でもその合唱曲や歌曲は学校や家庭でひろく歌われているそうですが、ドラマティックで親しみやすい6曲の交響曲は、デンマークに留まらず、世界で根強い人気を誇ります。少し話が脱線しますが、ニールセンの交響曲は、ティンパニと金管楽器が大活躍し、管弦楽法もすこぶる吹奏楽的なので、特に吹奏楽ファンには強烈におすすめできます(とりわけ第3番「ひろがりの交響曲」、第4番「不滅」)。ちなみに、私も昔、吹奏楽部でティンパニを叩いていたりした経験がありますが、ニールセンの交響曲を聴くと、その吹奏楽チックなサウンドと旋律に、妙に郷愁がかきたてられるものです。

第8回譜例
リスト
フランツ・リスト(1811-86,ドイツ)
リスト:「クリスマスツリー」S.186より
第4曲「Adeste Fideles」
【 ♪ 試聴する

 「クリスマスツリー」は、晩年のフランツ・リスト(1811-86)が孫娘ダニエラにプレゼントした愛らしい小品集です。ダニエラは、次女コージマとハンス・フォン・ビューローの娘で、リストの初孫。しかしコージマはほどなくワーグナーとの不倫に走ってしまったので、リストはダニエラを不憫に思い、ますます愛情を注いだといいます。この曲集が贈られたときダニエラは16歳。彼女に弾いてもらうことを想定して平易に書かれていますが、その優しい音遣いには「フランツおじいちゃん」の愛情がにじみ出ています。
 この曲集に収められた小品のいくつかは、クリスマス・キャロルの旋律に基づくもので、今日ご紹介するのは、「Adeste Fideles(神の御子は今宵しも)」の旋律に基づく第4曲です。
 リストは、信仰を深めローマで修道士となってから、キリスト教に題材を求めた作品を多く書くようになりましたが、この、孫への優しいプレゼントにも、その深い信仰があらわれ出ていると言ってよいと思います。

第8回譜例

 このようなクリスマス・キャロルに基づくピアノ曲を弾いてクリスマスを楽しむというのも、なかなか乙なものだと思います。皆さまも、楽しいクリスマスをお過ごしくださいね!

(2008年12月15日 ユーロピアノ東京ショールームにて録音 [ベヒシュタイン使用])

演奏・ご案内 ―― カフェ・マスター:内藤 晃
ネットワーク配信許諾契約
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内藤 晃(ないとうあきら)

 栄光学園高校、東京外国語大学卒業。桐朋学園大学指揮教室、ヤルヴィ・アカデミー(エストニア)にて指揮の研鑽を積む。チャリティー、施設慰問等の演奏活動に長年意欲的に取り組み、2006年度、(財)ソロプチミスト日本財団より社会ボランティア賞受賞。外語大在学中、CD「Primavera」(2008年3月)でピアニストとしてデビュー、「レコード芸術」5月号誌上にて特選盤に選出され、「作品の内面と一体化した純粋な表現は聴き手を惹きつけてやまない」(那須田務氏)などと高く評価される。

 現在、ピアノ、指揮、作曲、執筆の各方面で活躍。ピアニストとして、ソロ、アンサンブルの両面で幅広く活動するほか、監訳書にチャールズ・ローゼン著「ベートーヴェンを"読む"―32のピアノソナタ」(道出版)、校訂楽譜に「ヤナーチェク:ピアノ作品集1・2」「シューベルト=リスト:12の歌、水車屋の歌」(ヤマハミュージックメディア)がある。谷口未央監督による映画「仇討ち」(田原拓主演・ソーシャルシネマフェスティバル2012優秀賞受賞作品)、「矢田川のバッハ」(冨樫真主演・ショートストーリーなごや2012入賞作品)の作曲、音楽監督を務める。2013年、楽譜CDセット「マリンバ・フェイバリッツ」(野口道子編著・共同音楽出版社)のピアノ演奏を務め、伴奏譜の編曲にも参画する。横浜市栄区民文化センターリリス・レジデンス・アーティスト。(社)全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)正会員。

 これまでにピアノを城田英子、広瀬宣行、川上昌裕、加藤一郎、デイヴィッド・コレヴァー、ヴィクトル・トイフルマイヤーの各氏に、指揮を紙谷一衛、レオニード・グリンの両氏に、音楽理論を秋山徹也氏に、古楽を渡邊順生氏に、ジャズコンポジションを熱田公紀氏に師事。

ホームページ http://www.akira-naito.com/

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