ただ鍵盤を叩くだけでは音楽ではない

特級
桑原志織 さん

★演奏曲目★

リスト:スペイン狂詩曲 S.254

◆ピアノを始められたきっかけを教えてください。

家にアップライトピアノがあったので、小さいころからピアノに触れる機会がありました。また、私に何が向いているかわからないので、母がいろいろやらせてくれた習い事の一つが、ピアノだったんです。確か、習い始めは4歳ごろでした。

◆いくつかされていた習い事の一つがピアノだったのですね。桑原さんにとってピティナ・ピアノコンペティションとは、どのようなものなのでしょうか。

高校1年のときにG級を受けましたので、今回2年ぶりに受けました。私にとって、コンペは人前で演奏できる貴重な機会であり、一つの大切な舞台なんです。コンペに出場すると、それに向けて精一杯練習するし、自分の弾ける曲のレパートリーも増えるので、とても自分のためになるものだと思っています。

◆コンサートと異なるとはいえ、確かにコンペも人前で演奏する一つの舞台ですよね。桑原さんが2013年度特級に挑戦されたきっかけは何だったのですか?

実は、私は「特級なんて自分にはまだ早い」と思っていたので、まだ特級を受けるつもりはなかったんです……。でも、申し込み締め切りの直前に、先生が「挑戦してみなさい!」と背中を押してくださったので、急遽ウェブで申し込みをして、特級を受けることになりました。

◆締切直前に決定だったのですね! そうなりますと、課題曲の選択も大変だったのではないでしょうか。

はい。特級はとにかく演奏時間が長い上に、今回急だったので本当に選曲に悩みました。曲の長さや調性をみて、今までに弾いたことのある曲からいくつかピックアップしました。でも、それだけでは自分のレパートリーが増えないと思ったので、新しい曲も織り交ぜました。

◆ファイナル提出曲は「チャイコフスキー/ピアノ協奏曲 第1番」でしたが、こちらはどのようにして決められたのですか?

これは私が大好きな曲でしたし、春に譜読みをしていた曲だったんです。春に国内の講習会でロシアの先生にレッスンをしてもらったのですが、そのときは譜読みしたばかりでボロボロだったので、「ここで再チャレンジしてみたい」と思って選びました。

◆重厚でとてもきらびやかな、大人気の曲ですよね。一次予選通過後は、二次予選に向けてどのような練習をされたのでしょうか。

バッハとショパンのエチュードをあまり弾きこめていなかったので、そこを重点的に練習しました。そして「ラフマニノフ/ピアノソナタ 第2番」は以前学校の試験で弾いていたはずなのに、思うように弾けなくなってしまっていたので、感覚を元に戻す作業も必要だったんです……。焦って必死に弾いていても、「ただ懸命に弾いているだけではイメージが伝わらない」と先生からご指摘を受けてしまったので、部分部分の雰囲気を自分なりに具体的にイメージして弾きこみました。

◆短期間でたくさんの曲を仕上げなくてはならないので、とても大変だったことと思います。二次予選の後にはセミファイナルの約50分間という長いソロプログラムが待っていましたが、そちらに向けてはいかがでしたか?

このときはそれまで以上に出来る限り音楽に集中して、練習に取り組みました。譜面台があるとピアノの音の響きが変わってしまうので、邦人課題曲の暗譜も完璧にして臨みました。やっぱり1時間弱のプログラムを通して弾くとなると、とても体力が必要なので、体力の配分を考える必要がありました。それから、「新曲の邦人曲を最初に持ってきて、ピアノの感じをつかんでからべート―ヴェンとショパンを弾こう」ですとか、「はける直前に体力が必要なスカルボを持ってこよう」などと考えをめぐらして、曲順を決めました。

◆特級セミファイナルは、G級までの級と比べて演奏時間がとりわけ長く、ひとつのリサイタルのようですので、曲順ひとつが大きな意味を持っているように思えます。セミファイナル本番を終えてみた感想はいかがでしたでしょうか。

セミファイナル本番を迎えるまでは体力的にも精神的にも、自分の気力がもつかどうかとても心配でした……。でも、実際に舞台で弾いてみると、思った以上に気力が充実して、疲れを感じることなく、練習よりも楽に弾くことができたんです!「本番では練習とは違う、なにか特別な力が働くんだな」と改めて思いました。

◆一回の本番ですべてを出し切るのはとても難しいことと思いますが、本番ならではの特別な力が湧いてくるものなのですね。セミファイナル通過後には、ついにファイナルでピアノ協奏曲を披露することになりますが、どのような練習をされたのでしょうか。

まさかファイナリストに選ばれるとは思ってもいなかったので、「あと3日しかないのにどうしよう!」と本当に焦ってしまいました……! 毎日暗譜に追われて必死だったのですが、その中でもバレエのイメージをもって、大きな音量を必要とする箇所でも「ただ鍵盤を叩くだけでは音楽ではない」という言葉を忘れずに、ひたすら練習しました。

◆毎年、ファイナリストが決定してから、コンチェルトまで3日というごくわずかな時間しかありませんので、ファイナリストの方々は例年通り、怒涛の数日間を過ごされたのではないでしょうか。実際に特級ファイナルを終えられたときの感想はいかがでしたか?

本番では、みなさんに「良い曲だな」と思ってもらえるように、ミスを恐れず、順位にこだわらずに演奏しました。そのおかげで、何かが吹っ切れて、のびのびと自分の伝えたいことを表現することができたように思います。色々ありましたが、オーケストラや指揮者の皆さんに助けていただきながら、楽しんで精一杯やりきれました!

◆桑原さんの力強くて表情豊かな演奏、本当に素晴らしかったです。銀賞のご獲得、おめでとうございました!

ありがとうございます。結果にはとにかくびっくりしたのですが、表彰式で色々な方に「特級ファイナル、良かったよ!」って言っていただけたのがとても嬉しかったです!

◆特級の結果発表は表彰式の終盤の方ですので、緊張しますよね。3月の入賞者記念コンサートでは「リスト/スペイン狂詩曲」を演奏してくださいますね。

はい。この曲は高校2年生の夏と3年生の4月にコンサートで弾いたことのある曲で、今年の受験でも演奏しました。明るく、舞踊的で、華やかで、とても気に入っている曲なので、「この機会に演奏したいな」と思ったんです。

◆とても聴きばえのする曲で、入賞者記念コンサートの舞台に合っているように思います。桑原さんの当日の演奏が楽しみになってまいりました。

ありがとうございます。今までお世話になったたくさんの方々がいらっしゃらなければ、この銀賞という賞は獲得できなかったと思います。銀賞と聴衆賞をいただいた者として、精一杯自分の表現を磨いて、当日お客様に伝えられるように頑張ります! ご来場いただく皆さまに楽しんでいただけるような演奏がしたいです。

◆素敵な意気込みをありがとうございました。最後に、次の目標に向けての抱負をお願いします。

これから先、自分のレパートリーを増やしつつ、国際コンクールにも挑戦していきたいと思います。そして、表面的な技術だけではなくて、人の心に触れるような、深い演奏ができるように、一生懸命勉強します!

(取材日:2014/01/31)